医学生が大学で学ぶべきことは、まず症状の判断、機器の操作、手技の実施、その他多くのスキルの習得に焦点が当てられています。しかしこれらと同じくらい必要不可欠な、見落としてはいけないもう1つの技術があります。それがベッドサイドマナーなのです。
ベッドサイドマナーとは、医療従事者の患者に対する態度と接し方のことです。それは患者とのコミュニケーションを定義するものであり、診療の予約から診断結果の説明にまで至ります。患者の病院での体験の全てにわたって、ポジティブな相互作用を行い、維持することを含みます。優れたベッドサイドマナーは、難しい手技を実施することに比べて価値が薄いように思うかもしれません。しかし病院で心地よい体験をした患者は、より優れた個人スキルを持つ医療プロバイダーを信頼し、頼りにする可能性が高くなります(患者満足度調査より)。
「過去20年間、学生を指導する経験豊富な臨床医がベッドサイドでのスキルに欠けていたり、その実践経験がなかったりすることがよく見られた。」(Silverman, 2012)。
ベッドサイドマナーが重要な理由
患者の病院内での経験は、医療従事者が実施するベッドサイドマナーによって大きく影響を受ける可能性があります。そのため、患者が医療従事者との対話をどのように感じているかを観察することが重要です。観察している者は、患者が快適かつ支援されていると感じているか、もしくは自分が歓迎されていないか、時には悪意を持たれているとさえ感じているかどうかを尋ねてみたいかもしれません。看護学生Anna Morrowは、ヘルスケアプロバイダーが患者の言うことを積極的に傾聴し、良好な信頼関係を築くことで患者に強い共感を示している場合、患者は慢性疾患を管理していく上での懸念や課題を共有使用とする可能性が高いことを発見しました。この患者たちは、ポジティブな相互作用こそが、信頼を築くための良質な治療と考えているのです。その結果、「患者は医師に対してより多くの質問をし、医師がそれを聞いてくれていると信頼するのです。」(Morrow, 2018)。
しかし残念なことに、適切なベッドサイドマナーの指導は行われていないようです。「過去20年間、学生を指導する経験豊富な臨床医がベッドサイドでのスキルに欠けていたり、その実践経験がなかったりすることがよく見られた。」(Silverman, 2012)。医師として既に長く診療をしていたとしても、ベッドサイドマナーの改善に努める必要があるのです。
ここでの懸念は、現場の医師が自分自身で学ばなければならないため、ベッドサイドマナーの教育と評価のための普遍的な方法がないことです。学生のうちにトレーニングを受けておかないと、実際の診療現場で何が求められるのか、それを理解することが困難になります。ある研究では、大学での実習を通じてベッドサイドマナーの適切な説明を受けたかという質問に対し、89.3%の学生が「いいえ」と答えました。この問題は、ベッドサイドマナー教育の重要性を強調することでしか解決できない領域です。このことを念頭に置いて行動することで、現在および将来の医療専門家の教育を改善し、その結果、患者の安全、信頼、そして快適性を向上させることができるのです。
ベッドサイドマナーのニーズの進化
医療技術の進歩に伴い、ベッドサイドマナーはウェブサイドでも提供されるようになりました。ウェブサイドマナーは、ヘルスケアの専門家が患者に事実上提供しているベッドサイドマナーです。今日の遠隔医療の世界でスクリーンサイドマナーを開発することは、優れたベッドサイドマナーを開発することと同じくらい重要です。患者は、直接にしろオンラインにしろ、医療プロバイダーが自分の話を聞いてくれている、あるいは理解してくれていると感じたいのです(MAdm, 2020)。
遠隔医療により、医療プロバイダーが画面越しの対応に適応しなくてはならないという、新しい矛盾する変数が生まれました。コミュニケーションの大部分を占めるボディランゲージは、オンラインの画面では制限されてしまいます。カメラを適切に配置し、適切な応答のしかたを身につけ、アイコンタクトを維持し、効果的に患者を引きつける方法を学ぶこと(Warshaw, 2018)は、すべてウェブサイドマナーを成功に導くための方策です。練習を行うことで、医師は画面を介してでも、自分の行動や言葉が患者の体験にどのように影響するかを認識できるようになります。遠隔医療は発展を続けており、スクリーンサイドマナー教育の必要性はなくなりません。
もう1つの課題は、異なる言語や文化的背景を持つ患者にもベッドサイドマナーを提供するということです。多言語の環境では、言語の壁や、その他の齟齬のある条件が原因で、ベッドサイドマナーの実践が複雑になる場合があります。トゥルグムレシュ医薬大学での研究において、研究者たちは、ベッドサイドスキルの学習と実践に関する問題点を調査しました。ベッドサイドマナーの指導実践が不十分であったことが、患者への対処に問題を引き起こす原因となっていたのです。研究者たちは、多言語環境で働くことは非常な困難を伴いますが、学生たちにベッドサイドマナーを適切に指導することで、そうした多言語の課題を含め、直面する課題に備えられるようになることを発見しました。
ベッドサイドマナーの養成と評価の方法
Andrew Elder博士とJunaid Zaman博士は、この質問に対し、ベッドサイドマナーを強調した臨床評価のデモンストレーション(以下のビデオ)で答えました。このビデオから学べることは、ハイステークな状況での試験を通じて指導の小さな瞬間を捉えることで、ベッドサイドマナーのトレーニングを積極的に形成できるということです。こうしたハイステーク試験は、実際、適切なフィードバック、採点、および判断を学生に与える機会をもたらす優れた臨床指導です。これは学生にとって重要です。それは学生が過去の間違いから学び、以前なら気づかなかったかもしれない将来の間違いを見つけることができるからです。Elder博士とZaman博士は、最終的に、学生の目標を質の高いベッドサイドマナーを提供する上での高いレベルの自信と能力を持つことに設定することを推奨しました。
MedSmarterのその他のリソースにも、ベッドサイドマナーに関する最善の実践に間する見解が共有されています。
良質なベッドサイドマナーを構成する5つの要素:
- 注意:細心の注意を払うことによって、患者は自分の必要としていることが重要と受け止められており、それが満たされるであろうと感じることができます。
- コミュニケーション:必要な医療情報を患者に提供し、教育し、説明します。
- 思いやり:やさしさと理解をもって話をし、患者にとって前向きな環境を確立します。
- 誠実さ:患者は正直な意見や情報を得たいと考えています。
- 敬意:患者に礼儀正しく、真摯に接し、相手の立場に立った治療を行います。
良質なベッドサイドマナーを実践するための5つのヒント :
- 常にアイコンタクトをすること:アイコンタクトは信頼を示し、関係性を築きます。
- 注意深く聞くこと:患者が聞いてもらっているという実感を持ちます。患者が自分の感情を説明し、質問しやすいようになります。
- 話を遮らないこと:話を遮らず最後までく聞くことは、関心を向けていることを表します。
- 患者よりも先に判断しないこと:患者には自分自身の意思決定権があります。プロ意識のレベルを維持することが重要です。
- 集中力を維持すること:いついかなる時も他のことに気を取られたり、患者から注意をそらすことをなくします。
これらのヒントとテクニックは、医学生や現役の専門家を指導するためのガイドラインを設定するために役立ちます。教師の観点からみれば、モデリングによって学習者のスキルを形づくり、ベッドサイドマナーがどのようなものかを理解させることができます。これらのヒントに沿って重要な領域を強調するために、ベッドサイドマナーの実践を記録してください。例えば評価者は、適切なアイコンタクトが使用されているかどうか、また使用されていないのはどんなタイミングかを実践的に確認できます。ビデオを活用してベッドサイドマナーの提供に役立つ詳細な情報を確認することによって、コーチングが容易になります。
Vosaicビデオプラットフォームの活用方法
ベッドサイドマナーの教授方法を考えるとき、ビデオの活用はすぐに浮かばないかもしれません。しかし実際、こうした重大なスキルを教える上での驚くべき方法なのです。患者とつながる前に自分自身を記録することで、患者が経験していることをより深く理解できます。このプロセスにより、学生が医師になった後に単独でミスを犯してしまう前に、ミスを体験させ、そこから学ばせることができるのです。それはすばらしい学習の機会であり、影響力のある方法で教員が医療専門家を育てる方法です。
ビデオによる実践は珍しいものではなく、遠隔医療を教える方法のひとつであることは証明されています。コーネル大学医学部では、ビデオを使用して、標準化された患者との遠隔医療での接触を刺激しています。その後、学生は患者と教員の両方からフィードバックを受けます。ここから読み取れることは、ビデオを教育実践に組み込むことは建設的であるということです。可能な限り最善な患者との接触を生み出すことに、学生は取り組みます。
Vosaicのビデオプラットフォームを使用することで、教員はビデオの録画、重要なモーメントのマークアップ、コメントの追加、改善をもたらすフィードバックを簡単に行うことができます。ビデオに直接強みと改善点をマークすることで、教員は、エビデンスのあるフィードバックを学生が簡単に確認できる方法で提供できます。さらに学生は評価済みのビデオを必要なときに必要な回数だけ、柔軟にレビューできます。Vosaicの医療シミュレーションの記録とデブリーフィングへの活用方法にご興味をお持ちでしたら、こちらから無料トライアルやデモンストレーションをお申し込みください。
この記事は、vosaic.comのブログ「Developing and Assessing Bedside Manner with Vosaic」を翻訳したものです(画像とも)。専門用語や専門的な記述の翻訳の正確性は保証いたしません。
Vosaic日本国内総代理店の橘図書教材では、Vosaicの販売、および導入後のサポートを行なっております。ぜひ、お問い合わせください。
Vosaicについて
Vosaicはアメリカ・ネブラスカ州リンカーンに本社を置くFACTSが展開する、教師教育、医療教育、指導者育成、専門能力開発のためのビデオプラットフォームです。数多くの教育機関、教育委員会、医療機関、ビジネスコーチング会社等に採用され、授業研究・授業評価やシミュレーショントレーニングなどのフィードバック、省察など、専門能力の開発のために用いられています。
橘図書教材について
日本のスポーツ界へのパフォーマンス分析システムの普及に20年間努めてきた代表者が、2019年に設立しました。スポーツを超えた幅広い分野の教育にもビデオコーチングを普及して貢献すべく、Vosaicの日本国内総代理店として販売とサポートを展開しています。
共訳書:スポーツパフォーマンス分析入門(株式会社大修館書店)
連 載:スポーツパフォーマンス分析への招待(月刊トレーニング・ジャーナル/有限会社ブックハウス・エイチディ)