2020年3月、研究者のNadav Ehrenfeld氏とIlana S.Horn氏は、「教師がグループワークをモニタリングする際のルーティンに関するフレームワーク:開始-加入-焦点-終了-参加」という研究論文を発表しました。
この研究の目的は、教師が生徒間のグループワークをモニタリングする際、一般的にどんなルーティンを用いているかを定義することです。生徒のグループワークに対する教師の関わりかたは、十分に研究されておらず、またコンセンサスもありません。今回、観察を基本にした公平なアプローチによって、生徒同士のコラボレーションをサポートする際の教師の役割について、それを科学者や教育者が理解するための優れた方法が明らかになりました。この調査は、グループワークの中で何が「ベストプラクティス」を生むのか、様々な意見がある場合においても、教師が自身に深く染みついたルーティンを理解するためにも役立ちます。
Ehrenfeld氏とHorn氏によると、グループワークには社会的なリスクと学術的な利点の両方があります。グループワークを授業で実施する際、教師はこうしたリスクと見返りのバランスを選択しているのです。さらに、むしろグループワークが学習の妨げになる場合もあります。生徒の議論がしばしば脱線してしまうからです。それでも、こうした研究を行うことによって、教師のモニタリングルーティンを生徒の理解力の促進に結び付けることができます。
今回の研究では、経験豊富な数学教師による8つの授業が観察されました。特に、教師と生徒グループとの会話の始め方、会話への入り方、対話の中心軸、グループからの離脱、そして全体的な参加のパターンに焦点が当てられました。
研究のデザイン
数年にわたるこの調査では、数多くの授業実践がVosaicによって記録されました。録画された事象には、教師が生徒に「課題を出す」ところや、グループワークをモニタリングしているルーティンが含まれています。研究者たちは、この研究にビデオベースの形成的フィードバック (VFF) モデルを求めていました。
「VFFごとに、2台のカメラを使って授業を撮影した。」と記述されています。カメラ1はロボット三脚に設置したタブレットカメラで、教師の動きに焦点を当てながら、クラス全体を撮影しました。また、カメラ1はテーブルに設置した4つの個別マイクを介して、4人からなる生徒グループの会話を記録しました。これによって、教師がモニタリングで介入する前と後の生徒の会話を聞くことができました。カメラ2(視点カメラ)は、該当の教師の頭部、肩、胸部に取り付けられ、教師が生徒と対話するために教室内を移動しているときに見ている場所を捉えました。」
Ehrenfeld氏とHorn氏は、編集されたビデオ映像を使って、教師の4種類の活動を分析しました。
- グループとの対話
- グループ間を黙って巡視
- クラス全体に対する話しかけ
- その他の活動
研究者たちはこのデータを使って、教師のモニタリングのルーティンの中にある傾向を分析しました。
観察対象の教師には、この研究の前に専門能力開発の機会が不定型に与えられました。その教師たちが専門能力開発組織(PDO)に関与するグループから選ばれたからです。PDOを通じて、教師たちは質の高い数学指導の例をたくさん与えられました。そのため、これらは最良の例として記述されていました。
モニタリングのルーティン
開始
この研究で最初に繰り返し行われた行動は「開始」でした。これを分類するために、Vosaicでは3つのコードが使用されました。「生徒」というコードは、生徒から教師との対話を開始したことを意味するのに対して、「教師」というコードはその逆を意味しています。3つ目のコードは「不明」です。これらのコードによって、グループワークを妨げるさまざまな教師の習慣と、生徒が授業中に感じている自己判断の程度を簡潔に記述できます。
さまざまな形の「開始」の結果の1つは、時間の配分です。この調査では、ある教師が会話を始める際、常に同じ時間が費やされていました。生徒から会話を始める際は、その時間は同じではありませんでした。時間配分が均等であることが、必ずしもすべてのクラスに適しているとは限りません。生徒同士の数学に関する議論に干渉してしまうことがあります。しかし、それは議論に遅れる生徒がいないようにするための戦術でもあります。「開始」のルーティンをコーディングすることで、教師が自分の習慣や、議論の開始に関わる選択肢を理解するのに役立ちます。そこには介入しない、という選択肢もあります。
加入
繰り返し実行される次の行動は「加入」です。これは教師がグループでの会話を始める方法です。「加入」に関連するコードには、「結果についての質問」、「生徒からの質問への回答」、「相互作用の方向転換」があります。これらのコードのほとんどは自明のものですが、「相互作用の方向転換」とは、あるグループにとって役に立つ例やエピソードを教師が見つける方法を記述します。そして、教師はその例やエピソードを他のグループに渡します。その情報を受け取るグループがそれまで別のトピックについて話し合っていたとしても、そのようにします。
焦点
次に繰り返される行動は「焦点」でした。これは、教師がグループとのやり取りの中でコミュニケーションを試みる中心的な概念を表します。この研究では、主に2つの焦点を観察しました。
第1の焦点は、すべての生徒が割り当てられたタスクに確実に参加し、理解することでした。この最初の概念を最も大事な焦点として教師が示すと、グループはしばしば目的を達成することができました。しかし、すべてのグループが設定したタスクを完了したわけではありません。タスクの完了は教師にとって不可欠な目標です。第2の焦点は、生徒にヒントを提供すること、または練習問題に適切に回答するための道筋に生徒を導くことでした。教師がこの第2の概念を最も大事な焦点として示すと、グループは常に目的を達成することができたのです。しかし、生徒たちは教師の助言を頼りにしてしまっていました。
終了
研究者たちの最後の課題は、「教師はグループとの会話をどう終了するのか?」ということでした。終わり方次第で、認識要求がどのように増加または減少するのか観察しました。「終了」に関するコードは3つあります。「オープン」は、生徒の関心を今後の発見に向けたり、何かを考えたりするように指示するものです。「クローズド」は、今後の指針を明確に示します。「不明」は総時間の10%未満でした。
クローズな終了は会話をまとめるのに便利で、生徒は自分のペースで作業を行い、目的を完了することができます。しかしタスクが「非問題」になると、認識要求が低下します。教師が生徒に次のステップを説明してしまうと、生徒は自分自身で思考の経路を作り出す必要がありません。一方、オープンな終了だと、生徒たちに「意味づけ」の余地が残り、生産的な思考を喚起します。
参加パターン
最後に、研究者たちはVosaicを使って参加パターンを分析しましたが、これには教師の生徒に対する志向が伴いました。この部分には、凝視、身体の向き、話し声といった「ニュアンス」が含まれているため、ビデオソフトウェアを使わずに分析することは非常に困難です。「参加パターン」には3つのコードがありました。「教師とグループ」は、教師がグループ全体に向かっていることを意味します。「教師とグループ以外」とは、教師が生徒のグループの中の1部、または1人の生徒だけと対話していることを示します。もう1つは「不明」です。
教師は、参加パターンに関するさまざまな戦略を使って、目的を果たすことができます。まず、1人を選んで関わる参加パターンで、個々の生徒の理解を確実にし、生徒が「体面を保つ」ための助言を提供できます。生徒は、教室全体にさらされるというプレッシャーを受けることなく、質問に答えることもできます。一方、グループ形式の参加パターンは、生徒が互いに助言しあうように促すことができます。
調査結果と議論
Ehrenfeld氏とHorn氏の研究による主な発見は次の2点です。第1に、グループワークが有効なとき、教師が黙って教室内を巡視している時間はほとんどありませんでした。この研究において、授業時間の12%以上を黙って巡視していた教師は1人だけでした。第2に、教師は一律に各グループとほとんど同じ時間を過ごしていました。 グループあたり、約50秒から70秒です。
全体的にいって、経験豊富な教師は、開始、加入、焦点、終了、参加のパターンがはっきりと観察できるルーティンと一貫性を持っています。これらのルーティンに名称を与えることによって、教師たちは自分の習慣について意識し、省察に生かすことができます。さらに教師とグループの間の相互作用を生徒の理解に生かすことができます。研究に参加した教師たちは、自分自身を省察することができ、今後のグループワークを円滑に進めるためのさまざまなルートを確認できたと述べています。この研究で明らかになったように、グループワークをモニタリングするルーティンは学習環境を形づくると同時に、また逆にそれによって形づくられもします。そうしたルーティンの微妙な部分がビデオに記録されたときだけ、それが明確になるのです。教師がグループワークのモニタリングをどう管理するかは、生徒の問題解決能力に影響を与えます。このプロセスを効率化する上で、Vosaicのようなツールの使用は不可欠です。
Vosaicは高等教育、K-12、さらには医療コミュニティで利用されていますが、研究にも適しています。研究者たちはこう述べています。「Vosaicのチームとともにそのツールを使って、教師のグループワークのファシリテーションを分析した今回の研究は、非常に意義深いものでした。Vosaicのチームはとてもフレンドリーで、すばらしい対応をしてくれました。このツールは生産的なコラボレーションを可能にします。動作も安定しており、また魅力的なビジュアルインターフェイスを備えているため、この研究では視覚的な表現が重要なひらめきを与えてくれました。教室でのビデオコーチングに、強く推薦します。」
研究の詳細については、こちらから論文全体を読むことができます(有料)。
この記事は、vosaic.comのブログ「Teaching Routines During Groupwork」を翻訳したものです(画像とも)。
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Vosaicについて
Vosaicはアメリカ・ネブラスカ州リンカーンに本社を置くFACTSが展開する、教師教育、医療教育、指導者育成、専門能力開発のためのビデオプラットフォームです。数多くの教育機関、学区、医療機関、ビジネスコーチング会社等に採用され、授業分析や授業評価、模擬授業やシミュレーショントレーニングなどのフィードバック、省察など、専門能力の開発のために用いられています。
橘図書教材について
日本のスポーツ界へのパフォーマンス分析システムの普及に20年間努めてきた代表者が、2019年に設立しました。スポーツを超えた幅広い分野の教育にもビデオコーチングを普及して貢献すべく、Vosaicの日本国内総代理店として販売とサポートを展開しています。
共訳書:スポーツパフォーマンス分析入門(株式会社大修館書店)
連 載:スポーツパフォーマンス分析への招待(月刊トレーニング・ジャーナル/有限会社ブックハウス・エイチディ)