現在、学校は非常に厳しい状況にあります。生徒たちに最高の体験をさせたくても、厳しい予算の制約や人手不足がそれを妨げています。差し迫った問題への対応に追われ、教員の専門能力の開発は見過ごされがちです。それによる問題は既に顕在化し、時間とともに悪化する一方です。教員の専門的能力の開発に投資をしないということは、そこにある大きな費用対効果を見落としているのです。教員の能力開発に投資すれば、教員は直面している多くの課題にうまく対応できるようになり、定着率が上がり、それは最終的に生徒の成績向上へとつながっていきます。
教員の能力開発は、正しく行えば非常に有益であるだけでなく、限られたリソースの最大限の活用にもつながります。
限られたリソース
近年、学校の資金不足と予算の逼迫が懸念されています。不況時の予算削減により、米国の約半数の州において、2016年の学校予算は2007年よりも削減されています。そんな中で学校が何か新しい取り組みを行ったり、新しいテクノロジーを導入したりするには、他の価値ある分野への予算を削減しなくてはなりません。その結果、教員のポストが削減された学校もあります。パンデミックによって生徒が学業面でも精神面でも苦しんでいる今、こうした削減案は特に憂慮すべきものです。
不足しているのはお金だけではありません。パンデミックによって、教員と時間の不足もさらに悪化しています。人手不足は多くの産業を直撃していますが、教員も例外ではありません。労働統計局によると、地方と州の教育職部門は、9月だけで16万1千人の雇用を失いました。そのため学校の指導者や職員は、自分のペースで仕事を行うことができなくなっています。ただでさえ時間に追われている教員や管理職は、さらに大きな負担を強いられています。管理職は人のやりくりに追われ、最も大事な生徒の学習が後回しになりかねません。
リソース不足の問題は現在だけでなく、将来にも影響を及ぼします。教職課程への入学者数は減少しています。米国教員養成大学協会の調査によると、今年、学部レベルの教育プログラムの19%、大学院レベルの教育プログラムの11%において、入学者数が大幅に減少しています。このことは、教員養成においてどういう意味を持つのでしょうか?
なぜ教員養成への投資が重要なのか
教員が多くの課題に直面していることは明らかです。新任教員は、教室運営、指導、カリキュラムについて学ぶと同時に、学校の文化や運営、試験準備や運営、州の基準、保護者との関係などに対応しなければならず、余裕はありません。さらにはCOVIDの影響、新しいテクノロジー、生活リズム、絶え間ない変化に適応しなければならないというプレッシャーが加わります。適切なリソースを投じ、能力開発を行わなければ、教員の苦労は増すばかりで、ますます非生産的な作業に従事してしまうことは明らかです。教員の能力開発に投資すれば、教員は自分の役割に適応し、成長するために必要なツールを手に入れ、装備とサポートを感じることができるのです。
また教員の能力開発への投資が、教員の定着率に大きな影響を与えるという研究結果もあります。カリフォルニア州立大学イーストベイ校の研究では、中学校の科学教員に20時間の専門能力開発を行なったところ、定着率が平均60%から85%に上昇したことが明らかになりました。このような結果は、教科を超えた他の研究でも当てはまります。例えば、ハーバード大学の研究では、MQIコーチング(ビデオベースの能力開発の一種)によって、数学の教員の定着率を高まりました。離職率は学校にとって大きなコストであり、これまで見てきたような、人員配置における問題の一因となっています。定着率を上げることで、学校は貴重なリソースを節約することができます。
教員への投資は生徒の成績に直結します
全米教育評価・地域支援センターは、専門的な能力開発を受けた教員(厳密な証拠基準を満たした9つの研究で、平均49時間)が、生徒の学力を平均21%ポイント向上させることを発見しました。教育の質とは「さまざまな生徒が学習できる指導」と定義され、生徒の学習と達成度を向上させる学校関連の要因の中でも最も強力なものです。生徒の学習において、教員は重要な役割を担っています。学校が教員に投資することは、すなわち生徒と学校全体の学力向上に投資しているということなのです。
(後編に続く)
この記事はVosaic.com内の記事「Investing in What Matters: Using Scarce Resources to Develop Schools’ Most Valuable Assets」を翻訳したものです(画像とも)。専門用語の翻訳の正確性については保証いたしかねますので、もし疑問がある場合は、原文をご参照ください。
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