観察者が教師にフィードバックする際の問題は、暗黙の偏見をいかに排除するかということです。過去の経験や専門知識に基づく観察が非常に有効な場合もありますが、教室で観察した事実に基づく情報のみを重視し、確実に偏見を排除することも有効です。一見、無関係なコインの裏表にも見えるこの2つの事柄には、どんな関係があるのでしょうか。この疑問には、Laura Baecher氏の著書、『Video in Teacher Learning: Through Their Own Eyes』が参考になるでしょう。

判断に働く心理

人間の脳は、生存のためのメカニズムとして迅速に判断を下すようにできています(例えば熱いストーブから手を離す、動物が捕食者を一瞬で判断して逃げる、といったことです)。もちろん、教師の判断はそれにかかる時間の長さに影響されます。教師は大小さまざまな判断を1日に何千回も行っています。すると闘争心や逃避行動が起きるのも無理からぬことです。しかし私たちの目標は、授業観察の際、教師に対する早まった判断を減らすことにあります。

私たちの脳の中には、2つの思考システムがあります。1つ目のシステムは感情に頼った直感的なもので、2つ目のシステムはゆっくりとした意識的な注意を必要とします。この2つ目のシステムは、与えられた状況の中に存在するあらゆる証拠を考慮します。1つ目のシステム、「Automatic brain(速い思考)」をスローダウンさせることについてはこちらの記事に簡単にまとめてあります。

第1のシステムは、暗黙の偏見を生み出し、それはやがて行動に現れ、生徒や教師の成長を妨げる可能性があります。私たちが「観察したこと」と思っていることは、実は過去の経験に基づいた一瞬の思い込みかもしれないのです。

意図的に観察することの利点

事実に基づいた観察データだけで、本当に教師が成長できるのかと疑問に思うかもしれません。キャロル・サンフォードは、著書『No More Feedback』の中で、成長や変化を促す十分な省察は、実際のところ人が自分自身で身につけるべき能力だと説明しています。外部からの圧力や提案によって省察を促すことはできません。逸話的な証拠を排除し、物理的に観察できるものだけを提示することで、教師が自分で成長分野を発見する余地を残し、必要な省察の時間を経た後にさらに成長することができます。

また、事実として観察できるものだけを使って意図的に観察することには、教師に実際に省察する機会を与えるだけでなく、他にも多くの利点があります。『Video in Teacher Learning』によると、この種の観察には次のメリットがあります。

  • 学習目標の達成に役立つ証拠を集めることができる。
  • 現在使用している方法の影響を評価する
  • 教えることと学ぶことの関連性について省察する場を作る
  • 生徒の長所と短所を把握するのに役立つ
  • 潜在的な偏見を排除する
  • 取り組むべきジレンマに秩序を与える

偏見のない判断の環境を作る「ビデオ」

観察者は、低推論(事実に基づくもの、判断を含まないもの)と高推論(逸話的なもの、暗黙の偏見を含むもの)の観察の違いを理解するために、バイアストレーニングを行うことができます。このトレーニングには様々な方法がありますが、ビデオ観察は、拙速な判断のないフィードバックを即座に得られる環境を作ります。

ビデオ分析は、省察やデータ収集に役立つ事実の正確な証拠を作成することで、観察結果の偏りを防ぎます。研究によると、授業のビデオ分析は、教師の心に認知的不協和音を引き起こすことがわかっています。これは「自分は特定のスキルに強いと思っていたが、成長の余地があることがわかった」「自分には足りないところばかりだと思っていたが、代わりに強みが見つかった」という意味になります。またビデオ分析は、教師の省察と行動の認識をサポートし、優れた実践がどういうものなのか、その定義を同僚教師と共有することを可能にするので、全体として教師のスキル開発に好影響を与えます。

どんなビデオ観察でも、ビデオ分析を全く使わないよりは望ましいことですが、いざビデオ分析を始めようとすると、それは教師にとっても観察者にとってもストレスになります。観察に特化したプラットフォームを使用し、重要な瞬間にマークしたりコメントを作成したりするための適切なツールを使用すれば、プロセス全体がよりシンプルになります。

低推論と高推論

ビデオを使ってできるだけ偏見のない観察を行う場合でも、観察中のメモや観察後の反省会を適切に行うために、どのような発言が低推論や高推論にあたるのか、訓練しておく必要があります。良い経験則とは?「私は思う」「私は感じる」という言い方は、たとえ習慣的に使っていたとしても避けましょう。文章にしてみるだけで、本当に言おうと思っていることの「骨子」が出てきてしまうのです。代わりに、「私は見た」や「私は聞いた」といった言葉を使うようにしましょう。

他にも『Video in Teacher Learning』では、観察を低推論なものに留めるためのアドバイスとして、観察可能なことだけを記録する、説明的で具体的な言葉を使う、観察した出来事や行動の正確な数を含める、といったことが挙げられています。また専門用語を使わず、事実に基づいて観察するということもあります。

以下のフィードバックの例は、特定のシナリオにおける低推論と高推論の観察の違いを示しています。

高推論
「授業の進行のペースがとても遅い。」
低推論
「5人の生徒が残り時間4分でアクティビティを完了し、関係のない会話をしていた。」


高推論
「あなたは学生の回答に正確さを求めなかった」
低推論
「教師が生徒の課題の解答を確認する際、どのようにしてその解答にたどり着いたか説明させなかった。」


高推論
「先生はクラスの一部の生徒に対してしか、理解度を確認しなかった」
低推論
「教師は一部の生徒だけに呼びかけたが、クラス全体に解答を求めなかった。つまり、声をかけなかった生徒が正しい解答を出していたかどうかを知るすべがなかった。」

Vosaicの活用

クラウドベースのビデオプラットフォーム、Vosaicは、教師、教職課程の学生、教育専門家といった人々が、理論と実践のギャップを埋めるために使用しています。簡単な操作でビデオの録画、コメント、共有ができるため、ユーザーはより効果的に観察、コーチングや指導を行うことができます。教師やコーチは、ビデオをアップロード、録画、共有して、評価、フィードバック、自己省察などのために活用することができるのです。Vosaic日本国内総代理店の橘図書教材では、Vosaicの販売、および導入後のサポートを行なっております。ぜひ、お問い合わせください。


この記事は、vosaic.comのブログ「Non-Judgmental Classroom Observations」を翻訳したものです(画像とも)。

Vosaicについて
Vosaicはアメリカ・ネブラスカ州リンカーンに本社を置くFACTSが展開する、教師教育、医療教育、指導者育成、専門能力開発のためのビデオプラットフォームです。数多くの教育機関、学区、医療機関、ビジネスコーチング会社等に採用され、授業分析や授業評価、模擬授業やシミュレーショントレーニングなどのフィードバック、省察など、専門能力の開発のために用いられています。

橘図書教材について
日本のスポーツ界へのパフォーマンス分析システムの普及に20年間努めてきた代表者が、2019年に設立しました。スポーツを超えた幅広い分野の教育にもビデオコーチングを普及して貢献すべく、Vosaicの日本国内総代理店として販売とサポートを展開しています。
共訳書スポーツパフォーマンス分析入門(株式会社大修館書店)
連 載スポーツパフォーマンス分析への招待(月刊トレーニング・ジャーナル/有限会社ブックハウス・エイチディ)

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