〜 児童一人ひとりが主体的に取り組む授業へ 〜
2022年2月22日(火)、品川翔英小学校様において今年度3回目の「授業診断with Vosaic 担当者育成プラン」による研究授業の診断、そして研究協議会が行われました。品川翔英小学校様では、学校が目指す授業のあり方として「児童一人ひとりが主体的に取り組み学力の向上を目指す授業」を掲げ、研修部の鈴木桂先生と齋藤航先生を中心に授業内容向上へのさまざまな取り組みを続けています。RTF教育ラボと共同で実施している、この研究授業の診断と校内での授業診断者の育成はその一環です。
(第1回のレポートはこちら)
改良を重ねられる授業診断票
今回の授業科目は「生活科」、単元名は「じしゃくのひみつ」です。授業を行うのは初任の坪井瑞来先生です。
この授業診断に用いられる「授業診断票」は、それぞれの学校が目指す授業の姿を具体化し、研修に関わるすべての関係者の共通理解の基礎となるものです。品川翔英小学校様の授業診断票では、21の項目についてそれぞれ5段階で診断が行われます。これらの診断項目は、毎回の授業診断が行われるたびに精査され、用語や観察すべき箇所を、より具体的で目的に適ったものに修正されています。
授業診断票での診断と合わせて、さらにVosaic(教育用ビデオ分析ソフト)によるビデオ診断を行うことによって、重要なポイントを視覚で確認できる、授業者がより実感の持てる振り返りが実現します。Vosaicでのチェックポイントは「①授業者の表現」「②児童の自主/自発」「③授業者の個性」「④児童の発問後の反応」の4点です。こちらも1回目の授業診断と比較すると、より具体性のある、診断者にとっても判断、入力のしやすい診断項目へと進化しています。
授業診断票による診断、Vosaicによるビデオ診断のいずれも、教員や経験を積んだ授業観察者の視点に基づく「質的分析」と、それを数値化した「量的分析」の両方を備えたものになっています。この「授業診断with Vosaic 担当者育成プラン」の大きな特徴の1つが、この「量的分析」と「質的分析」のバランスと、映像による可視化がもたらす説得力です。
授業診断票による診断を担当するのはRTF教育ラボのメンバー3名(村上敬一氏、西村豊氏、吉村雄二氏)、一方、Vosaicを使ったリアルタイムでのビデオ診断を担当するのは、過去2回と同じく齋藤先生とアドバイザーの井田肇先生のペア、そしてRTF教育ラボの伊藤正樹氏です。
授業診断者としての成長
授業が始まる12時50分の少し前、教室に入室した診断スタッフがまず観察したのは、児童が安心して学習に集中できる環境が保たれているかという点でした。
この日の授業のねらいは、鉄のクリップが棒磁石のどの部分につくのかを調べ、磁石の「極」について学ぶというものです。磁石につくもの、つかないものはそれぞれ何だろうという、前回の学びを振り返る質問に児童たちが元気に手を挙げるところから授業がスタートしました。黒板に掲示する磁石の模型、iPadやプロジェクターといったIT機器も活用しながら、坪井先生が児童との活発なやりとりの中で授業を進めていきます。
授業の進行に合わせて、授業診断票で診断を行うメンバー、Vosaicでビデオ診断を行うメンバーは教室内を移動しながら、診断を行なっていきます。Vosaicを担当する齋藤先生は研究授業以外の日頃の授業でも積極的にVosaicを使っているだけあって、操作にはすっかり慣れていました。齋藤先生が気づかないところで注目すべき行動が起きていたら、適宜それを井田先生が齋藤先生に伝えます。
児童たちは棒磁石のどの部分にクリップが一番よくつくのかを予想し、実際に自分の磁石を使って、それが棒磁石の両端であることを確認しました。最後に、先生が磁石にはS極とN極の2つの「極」があること、鉄でできたクリップが一番よくつくのはその極であるというまとめを行って、研究授業が終了しました。
授業終了から研究協議会が行われるまでの約1時間の間、診断を行なったスタッフは振り返りに向けた準備を行います。各自が行なった評価の理由を述べ合い、擦り合わせをしていきます。1人の診断者では気づかない良い点や改善点があったとしても、こうして複数の診断者の目を経ることで、より精度の高い診断結果が得られます。一方、ビデオ診断を行なったスタッフは、Vosaicで入力したシーンの目印(モーメント)を手がかりに、協議会の場で見せたいシーンを選び出していきます。
授業者の視点を補う「もう一つの目」
協議会では、まず授業者の坪井先生自身による振り返りの後、RTF教育ラボのスタッフからの講評が行われました。授業診断票による診断をもとに、「導入部分の時間がもっと短い方が良いのでは」「磁力の強さを体感できるような実験を工夫してみては」「磁石がつく理由についても考えさせてみては」といった意見が出されました。
次に齋藤先生が、Vosaicの画面をプロジェクターに映しながら、気になった箇所の映像を再生しながらコメントを行いました。例えば、「児童の自主/自発」のモーメントが付けられた部分を再生しながら、自分なりの工夫で磁石の性質を見つけようとしている児童や、授業の終盤に集中力が途切れがちになっている児童の映像をピックアップして再生していきます。授業者の先生が気づかないところをこうして別角度から確認できることも、ビデオを使うメリットです。
今年度、3回にわたって実施されたこの授業診断プログラムによって、品川翔英小学校様の目指す授業の具体的なかたち、そこへ向けてとるべき道筋がより明確になってきました。
品川翔英小学校 鈴木桂先生(研修部)
「授業診断票を使うことで、本校の目指す授業の中での問題点が明確になってきます。そして、Vosaicを使うことで、例えば『子ども達が主体的に取り組むようになるためにはどうするか』という視点で見た時のヒントが、具体的な子どもの動きから見えてくる面もあり、それを研究会の時にすぐに取り出して考え合うことができることはとても効果的です。また、良くないと思われた発問でも、その発問によって子ども達一人一人がどう動いたかが見えるので、その発問の予測しない効果が見えるのです。それをうまく活用すれば、失敗だと思った発問も良い方向に持っていけるのではないかとも思いました。」
「授業力向上 授業診断プロジェクト」、また「授業診断with Vosaic 担当者育成プラン」については、RTF教育ラボ、または橘図書教材までお問い合わせください。
授業診断票出典:RTF教育ラボ(2020),教師が変わる・児童生徒も変わる 授業づくりの診断書,ハガツサブックス