多くの学校において授業観察の実施基準が決められ、実際に活用されていますが、それが教師の指導実践力向上のための絶対的な方法でないことに留意する必要があります。例えば観察されている教師がプレッシャーを感じ、いつもと違う行動をとってしまうことがあります。またこの方法は、効果的な指導実践方法が既知のものであり、認識できるものであるという仮定に立っています。

また観察者の側にとってみても、公平なフィードバックに苦労することが少なくありません。その結果、観察される教師も授業でどのような実践を行うべきか、また何を改善すべきか確信が持てなくなるばかりか、観察そのものに対して不満を持つこともあるでしょう。どうすれば授業観察の効果を高め、教師が自分の授業スタイルを深く理解できるようになるのでしょうか。

授業観察でコンピテンシーの正確なレベルが把握できないのはなぜでしょうか?

授業観察の結果が、必ずしも教師の実践力を正確に把握できているとは限りません。効果を高めるためには、教育者が別のフィードバック方法を活用すべきであると示唆している要因が数多く存在します。同僚や上司に自分の授業を観察される中で、教師が高いストレスを感じ、そのために本来の姿ではない行動をとってしまうことがあります。特にこの評価によって再雇用や昇進などの重要な人事判断が左右されるとなれば、そのストレスはますます大きくなります。Susan Stodolsky氏が論文「Teacher Evaluation: The Limits of Looking(教師評価:観察の限界)」で述べているように、教師に対する評価は「効果的な教育方法は既知のものであり、認識可能なものである」という前提に立っています。

多くの学区において授業観察は厳密な基準のもとで実施されているため、評価者は効果的な実践を見極め、公正な審査を行っていると考えられています。しかし実際のところ、校長は特定の基準に基づいた評価を行い、決められた通りの行動をしているかを観察し、そして教師の授業力について点数化した評価を提供するように求めらています。この評価プロセスがあるために、一貫性のある標準化された実践方法が奨励され、生徒たちのエンゲージメントを高めるような様々な変化や工夫は評価されにくい傾向があります(Stodolsky, 1984)。

従って、観察中に認められらた小さなアクションが教師の能力を正確に表していると考えることは間違っています。教師の観察から得られるフィードバックには、限定的な行動だけを評価することによるバイアスが含まれていることが多く、指導方法のバリエーションを認識できません。そこで、教師が自分の指導方法を自分で省察し、パターンを特定して実践力を向上させることが不可欠になってきます。

自己省察とは何か、なぜそれが教師にとって重要なのでしょうか?

自己省察が教師の指導実践力に与える効果を検証する前に、自己省察とは何であるのかを考えてみましょう。ケンブリッジ英和辞典によると、自己省察とは「自分の感情や行動、その背景にある理由を考える活動」とあります。多くの人が、日常生活の中で自ら省みることの重要性を認識していますが、それが授業での生徒との相互作用をどのように改善するのか、疑問に思う人もいるでしょう。自己省察をすることで、教師は自分の授業に繰り返して起きるパターンを認識し、その中の最も効果的なアクションに集中し、自己満足を避け、より意図的に行動する能力を身につけ、改善すべき点を見出すことができるのです。

パターン認識のための自分への質問:

授業や生徒との相互作用の後に自己省察を行うことで、教師は自分の実践について自問自答し、改善のために何ができるか見極めることができます。「私は教室でどのような行動をとったのか。そして、その理由は何だったのか。」と。今の自分の指導実践の有効性を振り返ることで、それが生徒にとって最も効果的な方法だからだと純粋に考えているのか、それとも自分にとって最も「楽」な方法だからなのかを判断することができます。また、どうすれば生徒との関わりを深めることができるのか、ということも考えます。生徒の興味を引き、生徒をより積極的に授業に取り組ませるには、自分の指導法を工夫しなくてはいけないことに気づくかもしれません。こうした自己省察から、教師は自分の成長の可能性について考えることができます。

自己満足に陥らないこと:

リフレクティブ・ティーチングは、継続的に成長するマインドセットを育み、教師が自分の教え方に満足してしまうことを防ぎます。Hibajene Shandomo氏は、もし教師が10年の経験を持っていても、毎年同じテクニックを繰り返しているだけでは、1年の経験を10回繰り返しているに過ぎないという話を紹介しています(Shandomo, n.d.)。この話は、授業の効果を高め、停滞を避けるためには、自分の指導法を常に振り返ることが重要であることを示唆しています。

反応的ではなく意図的に行動すること:

生徒とのその場その場のやりとりやその他の要因により、教師は授業中、常に判断を迫らています。そのため思わず、意図的ではない行き当たりばったりや反応的な行動をしてしまうことがあります。そうした反応的な行動は避け難いものですが、教師は反応的な行動を制限し、意図的に振る舞うように努めることが重要です。授業内容を振り返ることで、教師はその授業でうまくいったことを評価し、修正すべき行動を特定することができます。そうすれば将来同じような状況が発生した場合、教師は最も効果的だと思われる方法で行動することができます。

改善すべき点を特定すること:

教師が自分の授業を振り返り、その中で繰り返していた行動をはっきりと理解できれば、改善すべき分野を特定することもできます。一度に多くの分野を改善しようとすると、それら全部を追いかけることが難しくなり、改善点の振り返りが困難になることがあります。この傾向に対処する方法の一つとして、強みと弱みを特定し、目標設定に具体性を持たせることが挙げられます。教師は自分の苦手な分野を改善するため、いくつかに絞った目標を設定し、その改善を追跡できる具体的な測定方法を開発すべきです。

自己省察はどのように行うべきでしょうか?

自己省察が教師の成長に果たす利点を理解したとしても、日常の授業への導入にはまだ躊躇するかもしれません。しかし、自己省察を効果的に行うために膨大な時間を費やす必要はないのです。教師の多忙な時間の合間をぬって、自己省察を行うことができるのです。

日記による省察

日記を使ってその日の出来事を思い出し、重要な行動を記録することができます。授業が終わった後、5分ほどかけて、何が良かったか、どうすればもっと良くなったか、明日に向けて改善すべきことは何かといったことを振り返ることで、最小限の労力で大きな成果を得ることができます。また日記を書くという物理的な行為は、教育者が次の作業に移る前に、省察の時間を明確に設定するためにも役立ちます。

ビデオによる省察

ビデオによる省察は、教師が自分の授業を教師と生徒の両方の視点から観察することを可能にします。教師はさまざまな課題とスキルのレベルを持つ生徒に対応すること、魅力的な授業計画を作成するために教師としての興味を深めること、これらをバランスよく行わなければなりません。このように教師は様々な要素のバランスを取りながら授業を行わなければなりませんが、ビデオを使うことで、教師が見落としがちな側面を見ることができます。また無意識のうちに行っていた行動を評価し、その行動を修正するための反省を行うことができます。自己省察が教育者の効果を高めることは分かっていますが、改善すべき行動を特定できなければ、改善するための反省もできません。ビデオは、自分の指導実践のすべての要素を偏りなく評価できる唯一の方法です。


この記事はVosaic.com内の記事「The Role of Self Reflection in Teacher Effectiveness」を翻訳したものです(画像とも)。専門用語の翻訳の正確性については保証いたしかねますので、もし疑問がある場合は、原文をご参照ください。


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