数学ほど教えることが難しい科目はありません。その理由は、学生は数学的な思考の中で、常に軌道修正を繰り返しているからです。そして、教師は常に学生の一歩先を行かなければなりません。

教授と学生たちは、数学を教えるという冒険の中で指導能力を高めていきます。その能力開発には、研究に裏打ちされた方法を取り入れる必要があります。それによって時間と資源の浪費を避けつつ、確実に上達しているという自信を深めます。

教育実践を改善し、進歩させる方法は数多くありますが、中でもMQI(Mathematical Quality of Instruction)フレームワークは、研究に裏打ちされたものです。MQIで得られる多くのインサイトはカリキュラム全体の主題に適用することができますし、また適用すべきものです。

MQIフレームワーク

MQIフレームワークは、4つの指導領域を含む観察用ルーブリックで、教師はこれを「点数化」することができます。このルーブリックは、教師が数学の指導を具体的に分析する際の枠組みを提供します。数学の学習と指導の実践に含まれる4つの「領域」は、ハーバード大学の研究者によって特定されています。それはMQIフレームワークを適用したとき、最も改善効果が得られる実践に焦点を合わせています。

分析の視点(領域)

以下の情報は、ハーバード大学のMQIルーブリックから直接引用したものです。

コモンコアに準拠した学生の実践

授業において、教師でなく学生自身がどの程度実践を行っているか。つまり数学的な思考や推論を行い、数学についてのコミュニケーションに取り組み、認知的要求の高い課題や文脈に応じた問題を解いているか。

学生との共同作業と数学

授業進行の上で、教師が学生の数学的な考えや誤解をどの程度利用しているか。

数学の豊かさ

教師と学生は、授業の数学的な意味をどの程度理解しているか。「どのように」だけでなく「なぜ」の要素も含んでいるか、また教師と学生は、数学用語の使用において正確さに注意を払っているか。

エラーと不正確さ

授業の数学は明確で正確か。


これらの領域は、他の分野の指導にも無限に応用できます。例えば、学生が文法や歴史の授業内容についてどの程度考え、推論し、コミュニケーションをとっているか、「どのように」と比較して「なぜ」の要素が授業に含まれているか、どの教科の授業も明確で正しい情報を提供しているかといったことを、ビデオを使った省察ツールを使って評価できます。

ビデオを活用した教師へのコーチングのサイクル

教授法に関する4つの領域に加えて、コーチングサイクルには5つのステップがあります。これらは指導、発見、改善の各段階において教師の成長を導きます。教師は指導教師と(学生は教授と)協力して、4つの領域をこのサイクルの中に最適に組み入れ、省察と行動の実践につなげていきます。

ステップ1

教師は自分の指導している授業を録画し、その映像を指導教師と共有します。

ステップ2

指導教師は教師のビデオをレビューし、MQIビデオライブラリにストックされているビデオと比較しながら、MQIフレームワークのルーブリックを登録した分析フォームを使用して授業診断を行います。

プロからのアドバイス:クリップの収集

専用のソフトウェアを使っていない場合、ビデオクリップの収集は指導教師や教授にとって手間のかかる作業になります。ほとんどのソフトではビデオの特定の瞬間にタグを付けることしかできず、時間の幅を持ったシーンを指定することはできません。

教育用ビデオソフトウェアVosaicを使えば、この問題を効率的、かつ明確に修正できます。Vosaicは一定の幅を持ったクリップ(モーメント)としてビデオにタグ付け(マークアップ)を行うことができるのです。

この機能が必要な理由は、時間だけの記録や静止画フレームでなく、重要な場面すべてをキャプチャすることで、その場面に関わっている全員が、焦点が当てられている箇所を正確に把握できるからです。

さらにVosaicでは、特定したクリップに直接コメントを付けることも簡単です。これにより、MQIフレームワークのステップをよりシンプルに進めることができます。

ステップ3

指導教師は、MQIフレームワークを参考にしながら、タグ付けしたクリップ(モーメント)を適宜レビューします。必要に応じてモーメントにコメントを入力していきます。

ステップ4

指導教師と教師はVosaicのモーメントを参考にしながら、会話を通じたコーチングで、具体的な進捗状況、目標、今後の改善策を検討します。

ステップ5

会話の中で話し合ったアクションを、実際の授業の中で実行に移します。

MQIの信頼性

MQIの信頼性の根拠はハーバード大学での研究です。この研究では、無作為に選ばれた72人の教師がMQIメソッドを使用し、対照群の70人の教師と比較されました。

2つのグループの間において、MQIの改善要因の多くで統計的に有意な差がありました。まず「MQIコーチングを受けた教師は、対照群の教師に比べ、専門的な能力の開発が有益だと感じる」傾向がありました。これは学生にとって、より高いレベルのエンゲージメントが知識の保持を可能にすることを意味します。さらに「MQIコーチングを受けた教師は、対照群の教師よりも数学の指導力が改善されたと考えている」とあります。

授業のビデオと学生のアンケートによるもう1つの発見は、教師がMQIの実践を行った授業では、数学の指導実践が全体的に改善されていたことです。こうした知見に加え、指導領域のうち3つが統計的に有意なレベルで改善されていました。これらの領域は、「数学の豊かさ」「学生との共同作業と数学」「コモンコアに準拠した学生の実践」でした。

MQIにおけるビデオの重要性

これらの重要な指導領域をビデオ録画で観察するのには、多くの理由があります。第一に、教授が学生が指導するすべての教室にいて、紙とペンだけで十分な観察を行うことは不可能です。また教師が自分の記憶の中にある指導内容ではなく、実際に行われた指導内容や、それが学生与えた影響について、公平かつ真剣に見ることができるからです。

私たちは皆、2つのシステムを持つ脳を持っています。そのうちのシステム1は自動的に働き、私たちが生き残るための偏った判断を生み出しています。しかし教師に対するコーチングの場では、こうした無意識に行われる偏った判断は好まれません。ビデオはこの「自動的な脳」の働きを鈍らせ、より意図的な観察を可能にします。

ビデオ分析をされた教師が認知的不協和の感覚を持つことが分かっています。しかしこの認知的不協和は、教師は自分の指導についてそれまで信じていたことを少しでも変えるきっかけになり、成長を後押しするものなのです。

MQIフレームワークは世界中の学校や大学で利用され始めている、革新的なツールです。そこで提案されたコーチングサイクルは、教師の改善と成長のための最良の方法なのかもしれません。


この記事はVosaic.com内の記事「Shaping Proficient Math Educators」を翻訳したものです(画像とも)。


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Vosaicの安全なクラウドベースのビデオプラットフォームは、教師、現職教師、管理者が理論と実践のギャップを埋めるために使用されています。簡単な操作でビデオの録画、コメント、共有ができるため、ユーザーはより効果的に観察、指導、自己省察を行うことができます。
Vosaic日本国内総代理店の橘図書教材では、Vosaicの販売、および導入後のサポートを行なっております。また、授業力向上のための授業診断プログラムもご提供しております。ぜひお問い合わせください。

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日本のスポーツ界へのパフォーマンス分析システムの普及に20年間努めてきた代表者が、2019年に設立しました。スポーツを超えた幅広い分野の教育にもビデオコーチングを普及して貢献すべく、Vosaicの日本国内総代理店として販売とサポートを展開しています。
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